お客様が企業や従業員に対して、理不尽な言動や圧力をかける「カスタマーハラスメント」の事例は、近年増加傾向がみられます。
企業にとって顧客は非常に重要なため、無下に接することができず、対処に悩む方も多いでしょう。
中には、泣き寝入りしてしまった経験のある方もいるのではないでしょうか。
とはいえ、カスタマーハラスメントは野放しにすると、ブランドイメージの低下やスタッフの離職率増加を招くため、決して放置してはいけません。
そこで本記事では、カスタマーハラスメントによって及ぼす影響や対策法について解説します。ぜひ参考にしてください。
この記事の内容
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメントとは、「顧客という立場の優位性を利用して、企業に対して理不尽な要求をすること」を指し、「カスハラ」と呼ばれることもあります。
セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントと比べれば認知度は低いかもしれません。しかし、近年では増加傾向にあり、大きな問題となっています。
カスタマーハラスメントに該当する行為の例
カスタマーハラスメントに該当する行為の例としては、下記が挙げられます。
- 大声で無理難題を突きつける
- 土下座を強要する
- 言い掛かりをつけて金品を要求する
- 「接客態度が気に入らない」という理由で商品を無料で提供させようとする
- 「SNSで悪い口コミを書いてやる」と脅す
上記は一部の例ですが、このような行為はどれも企業活動に悪影響を与えかねません。企業や従業員を守るためにも対策する必要があります。
カスタマーハラスメントとクレームとの違い
カスタマーハラスメントとクレームは、一見似ているようですが、全く異なるものです。
クレームには、サービスや商品の改善を求める考えが根底にあります。したがって、正当なクレームを受けた場合は真摯に対応しなければなりません。
一方、カスタマーハラスメントは「要求内容」や「要求を満たす手段」に妥当性がありません。
万が一、カスタマーハラスメントによる要求を一度でも受け入れると、次第にエスカレートする恐れがあります。だからこそ、企業として対策が求められます。
厚生労働省が掲げる指針
現在、厚生労働者はカスタマーハラスメントについての指針を掲げています。
厚生労働省が調査した「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間で顧客から著しい迷惑行為を受けた企業の割合は、19.5%にも及びました。
そこで、厚生労働省は「企業は従業員を守る対応に取り組むことが求められる」としたうえで、「カスタマーハラスメント対策マニュアル」を作成しています。
実態の把握をするためにも、ぜひ確認してみてください。
なお、主に「マニュアルや研修を徹底しておくこと」「カスタマーハラスメントに対する相談担当者を事前に決めておくこと」といった対策が推奨されています。
カスタマーハラスメント事例が増加する3つの背景
カスタマーハラスメントの増加が深刻化している背景には、3つの要素があります。
- 過剰な顧客第一主義が普及しているから
- ストレスフルな現代だから
- SNSの普及で顧客との接点が増えたから
過剰な顧客第一主義が普及しているから
まず挙げられる背景として、過剰な顧客第一主義が普及していることがあります。
日本の企業においては、顧客第一主義が浸透しています。「お客様は神様」という精神のもとサービスを提供するのは、顧客満足度の維持・向上のために大切でしょう。
しかし、過剰な顧客第一主義により「お客様の立場であれば、企業に対してどんな要求をしても良い」という拡大解釈をする人が増えたのも事実です。
その結果、サービスにおいて少しでも自分の意に反することがあれば、怒り出すようなカスタマーハラスメントが増えています。
ストレスフルな現代だから
次に、ストレスフルな現代社会であることも関係しています。
競争社会や高齢化社会である現代では、多くの人がこれまで以上にストレスを抱えています。
また、新型コロナウイルスの感染拡大が起こってからは、中々外出できないモヤモヤもあるでしょう。
本来であればストレスを抱え込んだ際は、適切な方法で解消することが大切です。
しかし、企業をストレスのはけ口にしてしまう人も増えており、カスタマーハラスメントの増加につながっています。
SNSの普及で顧客との接点が増えたから
SNSの普及で顧客との接点が増えたことも、一つの背景です。
現在はSNSコンタクトセンターなどで企業と顧客がつながる機会が多くなっています。
そのため、SNS・コンタクトセンターを介して不当な要求をするなど、カスタマーハラスメントを行うハードルが低くなっています。
カスタマーハラスメントが企業にもたらす5つの影響
それでは、カスタマーハラスメントが企業にもたらす5つの影響を解説します。
- 組織の生産性が低下する
- 離職率の増加につながる
- 安全配慮義務への違反になりうる
- 従業員が精神疾患を発症した場合、労災になりうる
- 企業のイメージダウンにつながる
組織の生産性が低下する
カスタマーハラスメントは、組織の生産性低下につながります。
顧客から不当な要求をされた場合、従業員のリソースを大きく消費してしまうでしょう。
従業員の一部がカスタマーハラスメントへの対応に時間をとられると、他の従業員の業務負担も増大します。
そして、一度でもカスタマーハラスメントを受けると、また同じようなことが繰り返される不安が強くなり、業務に影響が出る恐れもあります。
離職率の増加につながる
離職率の増加にもつながります。
カスタマーハラスメントの被害にあった従業員は、精神的苦痛から離職を希望する場合もあるでしょう。
離職者が増えた場合、在職者の負担が重くなります。結果、さらなる離職率増加も懸念されます。
カスタマーハラスメントを放置することは人材流出につながることを意識しましょう。
安全配慮義務への違反になりうる
安全配慮の義務に関して、違反になりうる点にも注意しましょう。
企業には、従業員が安全に働ける環境を整える「安全配慮義務」が課されています。
カスタマーハラスメントにより従業員が強いストレスを受け精神疾患を発症した場合、企業側は安全配慮義務に違反したことになります。
このケースでは、企業側は従業員から損害賠償を請求される可能性があります。
従業員が精神疾患を発症した場合、労災になりうる
従業員が精神疾患を発症した場合、労災として認定されることもあります。
労災が認定された場合、会社には下記のようなデメリットが生じます。
- 労災認定の申請で企業側も書類準備の手続きに迫られ時間や手間がとられる
- 従業員が会社に対して訴訟を起こした場合、裁判の対応も必要になる
- 労災が発生したことで会社のイメージダウンにつながる
カスタマーハラスメントは、顧客が企業や従業員を悩ませる行為ですが、労務に従事したことで受けた被害になります。
労災認定された際のリスクについてはよく把握しておき、日頃からカスタマーハラスメントが行われてないか目を光らせましょう。
企業のイメージダウンにつながる
企業のイメージダウンにもつながります。
インターネット社会である現在は、SNSに企業の悪評を書き込み企業のブランドイメージを下げるような嫌がらせも増加しています。
SNSは拡散性も強いため、そのような書き込みはすぐに多くの人の目に触れてしまうでしょう。
また、店内で怒鳴られるなどのカスタマーハラスメントの場合、居合わせた他の顧客も不快にさせてしまいます。
カスタマーハラスメントの主な事例
ここでは、カスタマーハラスメントの主な事例を紹介します。
- 長時間拘束を強いられる
- 罵詈雑言を吐かれる
- 脅迫まがいなことをされる
長時間拘束を強いられる
長時間拘束を強いられることは、カスタマーハラスメントに該当します。
その場所から離れられない状態でカスタマーハラスメントを受けた場合の精神的ダメージは、相当なものです。
また、本来の業務に手が回らず、業務遂行が阻害されます。
罵詈雑言を吐かれる
罵詈雑言を吐かれるのも、カスタマーハラスメントでよくみられる事例です。
例えば、「クズ」「無能」といった従業員を傷つける言葉や「早く土下座しろ」などの度を越した要求が該当します。
顧客の個人的なストレスをぶつけられる場合もあり、従業員の精神的損害は計り知れません。
脅迫まがいなことをされる
脅迫まがいなことをされた場合も、カスタマーハラスメントに該当します。
具体的には、担当者を脅して迷惑料を払わせようとすること、SNSに名指しで悪評を書き込むことを予告するなどの行為です。
このように相手を脅すカスタマーハラスメントは、用件を満たせば強要罪や威力業務妨害罪などの罪に問われる可能性も十分あります。
介護現場でのカスタマーハラスメントの事例
介護現場では、カスタマーハラスメントの事例が多くみられ、利用者によるものと利用者家族によるものがあります。
利用者からのカスタマーハラスメントの事例には、下記が挙げられます。
- 物を投げつける
- 蹴る
- 叩く
- 手を引っ掻く、つねる
- 髪の毛を引っ張る
- 首を絞める
- 唾をかける
- 服を引きちぎられる
- 眼鏡を割られる
- 介護士の容姿や職業をけなす
- 暴言を吐く
- 利用者が介護士に交際を迫る
- 性的な言葉を言う
- 介護士の身体に触れる
なお、利用者家族からのカスタマーハラスメントの事例としては、下記が挙げられます。
利用者家族からのカスタマーハラスメントも、業務遂行に著しく影響を与えます。
- 暴言を吐く
- 介護士の容姿や職業をけなす
- 利用者家族の悩み相談に乗ることを強要する
- 利用者へ必要以上のサービスをすることを求める
介護を受ける立場であっても、度を超えた要求をしてはいけません。
あくまでも必要なケアを利用者に提供するのが「介護」です。
介護現場はカスタマーハラスメントが起こりやすい業界であることを踏まえ、予防や対応をしっかりと行うのが大切です。
公務員に対するカスタマーハラスメントの事例
公務員に対するカスタマーハラスメントの事例も多くみられます。
具体的には、以下のような事例があります。
- 「対応が気に入らない」という理由で、職員に暴力をふるう
- 庁舎内に長時間居座って職員を威圧する
- 長時間に及ぶ電話を何度もかけて特定の職員を拘束する
- 「要求が通らなければネットに悪評を書き込む」と脅す
- 職員を罵り土下座を強要する
公務員は「国民全体の奉仕者」であることは間違いありません。
ただし、不当な要求までも受け入れることは公務員の業務ではなく、カスタマーハラスメントとして対処すべきことです。
「要求を受け入れてもらえない」「待たされる時間が長い」といったことが原因で起こりやすい、公務員に対するカスタマーハラスメント。職員が本来不必要である対応にリソースを割くことがないように、今後もカスタマーハラスメント対策は最優先で行う必要があります。
店舗でのカスタマーハラスメントの事例
ここからは、店舗でのカスタマーハラスメントの事例を紹介します。
- 殴りかかる
- 蹴る
- 「ブス」「バカ」などの暴言を吐く
- 店内で大きな声を出してクレームを言う
- 数人で従業員を囲んで威圧する
- 「料理が気に入らない」という理由で作り直しを強要する
- 熱い飲み物を従業員にかける
- 閉店時間になっても店内に居座り、退店するように促しても無視する
- 従業員に交際を迫る
- 「ネットに悪い口コミを書く」といって脅す故意に予約をドタキャンする
- 店内の備品を盗む
このように飲食店や小売店などの店舗も、カスタマーハラスメントの温床になっているのが現状です。
カスタマーハラスメントへの対策法6つ
では最後に、カスタマーハラスメントへの対策を6つ紹介します。
- 対応マニュアルを作成・共有する
- 対応方法についての研修を実施する
- 従業員が一人で悩まない環境をつくる
- 顧客と対等な関係づくりをする
- カスタマーハラスメントの証拠を保存する
- 弁護士や警察にも相談する
カスタマーハラスメントから従業員を守るためにも、ぜひ下記の対策法を導入してください。
対応マニュアルを作成・共有する
まず、対応マニュアルを作成・共有しましょう。
一見、対応マニュアルを作成することは負担に感じるかもしれません。
しかし、いざカスタマーハラスメントの被害にあったときに組織や従業員を守るためには、対応マニュアルが役に立ちます。
あらゆるケースを想定して、トークスクリプトや上司に対応を代わってもらうべきタイミングなどを記載しましょう。
また、対応マニュアル作成後は、内容を従業員に共有することも重要です。
全員が対応の流れ・方法をインプットしておけば、組織全体でカスタマーハラスメントに対応する力を備えられます。
対応方法についての研修を実施する
対応方法についての研修も実施してください。
研修の時間を使ってマニュアルの共有をしても良いでしょう。
また、対応の流れや方法をわかりやすく解説したり、質問を受け付ける機会を設けたりするのも有効です。
従業員が一人で悩まない環境をつくる
従業員が一人で悩まない環境をつくるのも大切です。
一人の従業員にカスタマーハラスメントの対応を任せてしまった場合、あるときを境に限界に達する可能性があります。
場合によっては、離職や精神疾患の発症につながりかねません。
そのため、カスタマーハラスメントの被害にあったらすぐに周囲へ相談できる環境は重要です。
例えば、「上の人を出せ!」と言われる前に、必要に応じて責任者が対応する仕組みを確立しておくと良いでしょう。
なお、カスタマーハラスメントを受けた際に相談を受ける担当者を決めておけば、誰に相談するかで迷う必要もなくなります。
顧客と対等な関係づくりをする
顧客と対等な関係づくりをすることも欠かせません。
過剰な顧客第一主義に基づく対応は、時に顧客が不当な要求をすることにもつながります。そのため、普段から従業員に対しても「顧客とは対等な関係を築くこと」を説明しましょう。
社員一丸となってカスタマーハラスメントを許容しない姿勢を貫くことも、非常に大切です。
また、顧客対応の際も、不当な要求をされた場合はしっかりと拒否してください。
不当な要求にも対応していると「このお店ではどんな要求も通る」といった認識を持たれてしまい、さらなるカスタマーハラスメントが起こり得ます。
カスタマーハラスメントの証拠を保存する
カスタマーハラスメントの証拠を保存することも意識してください。
証拠として有効なものは、主に下記が挙げられます。
- カスタマーハラスメントの録画、録音
- カスタマーハラスメントの具体的な記録(発生日時や内容)
- 診断書(※対応した従業員が精神疾患になった場合)
カスタマーハラスメントについては、後に弁護士や警察に相談する必要性も出てきます。
そこで、できるだけ多くの証拠を残すように努めてください。
証拠を残しやすい環境づくりのために、ボイスレコーダーをすぐ取り出せる場所に置いておくような工夫をするのも良いでしょう。
弁護士や警察にも相談する
被害程度の大きいカスタマーハラスメントについては、弁護士や警察に相談すべきケースもあります。
「社内で対処できるカスタマーハラスメントでない」「従業員の心身に危険がある」と判断したら、躊躇せずに社外の機関を頼りましょう。
その際は、カスタマーハラスメントの証拠を同時に提示できると、さらに有利に働きます。
まとめ:カスタマーハラスメントへの対策はしっかりと実践しよう
カスタマーハラスメントは、顧客の不当な要求でありクレームとは異なります。
企業として顧客が満足するようなサービスを提供することは大切ですが、クレームとカスタマーハラスメントはしっかりと線引きして対応しなければなりません。
現在は、行政機関である厚生労働省もカスタマーハラスメントの実態を問題視しており、その対策に取り組んでいます。
もしカスタマーハラスメントの被害にあっても、不当な要求を受け入れ続けるのではなく適切な対策を講じてください。